B5版で200ページある。定価が2500円、高いと言えば高いが安いと言えば安い、というか安い。最初見たとき、どうやって作ったのかと思った。取材費がかかりすぎて採算が取れないのではと思ったのだ。高橋さんに聞いたら、取材のため1年間、高橋さん、四釜さん、川瀬さんの3人、時には撮影助手をくわえて4人が、3、4日づつ7回くらい沖縄に行ったそうだ。土づくりから窯出しまでの全作業を取材しているので日程の調整にも苦労したことだろう。これらの費用は出版元、グラフィック社が負担したという。かくて、一つの窯の仕事と人の全てを記録した希な本ができあがった。


さて北窯は1992年に初窯、以来30年がたった。いまや、いやずっと以前から沖縄を代表する窯元の一つである。東京でも、他の沖縄の焼物に比べて目にする機会が多いような気がする。人気があるだろうし、生産量も多いのではないか。それに4人の親方が共同で窯を運営するという組織のありかたも特徴的である。この本では、土づくりに始まる全作業、4人の親方のすがた、作品が多くの写真で紹介されている。履歴や運営のは四釜さんが、材料のことや作業工程は高橋さんが書いていて、さらに卒業した弟子や関係者の思い出等の文章が載っている。一読すると、北窯の全体がわかってくる。一覧すると、4人の親方のひととなり、作品のすばらしさを知ることができる。沖縄の青い空の下で行われる楽し気な集団の仕事の様子が感じられる。
窯をやっていくうえで松田米司親方は「沖縄で産出する材料を使うこと」「可能な限り自分たちで材料の調達も行うこと」「釉薬は工房で作ること」という方針をあげておられるという。これが北窯の焼き物の魅力の源と思えるが、これを持続させることはなかなか難しいのではないか。北窯は、安きに流れず高い志を掲げて、作品の質と量そして経済とを両立させているのではないかとわたしには思われれう。
何年か前、沖縄で全国大会があって、この北窯も見学先のひとつであった。工場の大屋根が琉球赤瓦で葺かれていて、立派で美しかった。米司親方が、古瓦の調達のため沖縄中を駆け回ったと言っておられた。
発行:潟Oラフィック社 2022年12月25日発行 定価:2500円(税別)
(藤田)
【その他の最新記事】