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備後屋民藝店を訪れるひとは、品名ほかいろいろの表示が、白い紙片に墨書されているのを見るだろう。それらは店主の岡田さんがお書きになったもので、いつだったかそれについてお聞きしたことがあった。おっしゃるには「自分は正式に書を習ったことはないが、必要だったので、恥さらしをしている」というお話であった。
小生のようなものが申し上げるのは憚られるのであるが、その清潔で勁い字の姿はいかにも民芸店にふさわしく、また筆の字の美しさというものを感じさせて下さるものである。小生のほかにも岡田さんの書に関心を寄せるひとは少なからずおられて、その方々が自然に、こういうものを書いてくれないか、とういう注文を寄せられるようになった。さらにそれらの求めに応じてお書きになったいろいろな文字をご覧になって、自分のところで展覧会をしないかという方まであらわれたのである。 (中略)

「とうふ」と「豆腐」の文字である。この書としては一風変わった文字は、映画評論家の白井芳夫氏の依頼から生まれたそうで、そもそもは、小津安二郎が-----自分の作る映画は豆腐みたいなものだ、というようなことを言ったことに因っているそうである。白井氏はこのひらがな三文字の書に、藍染の表装をして所蔵なさっているという。 (中略)
岡田さんの書は、美を狙ったものでなく必要から生まれたものである。岡田さんの書も豆腐みたいなものなのだろうと思った。
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で、「豆腐」「とうふ」の書を転載させていただきます。
佐藤さんも触れておられる通り、当協会の封筒の協会名ロゴは岡田さんにかいていただいたものです。全国大会の時に、大会冊子の表紙の題字にとお願いしたもので、それを転用しました。いい封筒になったと思います。
岡田さんは物静かな方でした。話し声もひくくて、顔を寄せるようにしてお聞きしたことを思い出します。晩年になってからにぎやかな性格になったとは、娘さん楠本さんのお話です。いつも素敵なお召し物でした。ジャケットやシャツ、いつもいいなあと思って拝見していました。略歴を拝見すると、学徒動員も経験なさっているそうです。また民藝店を創業して東京を代表するお店になさいました。ご縁に感謝しています。
(藤田)