2022年01月27日

寒の入りの頃には 〜木喰明満 地蔵菩薩像の絵葉書〜

 一年が終わり、一年が始まった。一年で最も寒い「寒」(かん)もまた、年の始まりを追いかけるように始まる。「小寒」「大寒」である。これを過ぎるとやがて「立春」を迎え、春がどんどん近くなってくる。1月5・6日の小寒から始まる時期を「寒の入り」と言うが、この時分は寒中見舞いを出すのが恒例である。喪中の挨拶をいただいた場合の返礼を認めるのも、この時期。
 今年は仕事でお付き合いのある方に喪中の返礼として寒中見舞を出した。送付先は奥様に。亡くなられたのは旦那様である。癌であった。享年63歳。このときつぶさに知ったことは一番身近な方が亡くなられたとき、一番悲しみたい人はろくすっぽ悲しみに浸ることはできないということ。葬儀の手配・行政の手続き・金融機関の手続き・仕事上の差配等々やることが多すぎるのだ。物事が一段落し、直接奥様にお会いする機会があった。思えばお伺いする度に料理好きの旦那様から手作りの一品を振舞っていただいた。毎年夏になると、新鮮な紫蘇を道の駅で買い込み、よく紫蘇ジュースにしていた。夏の暑い日に訪問すると必ずと言って良いほどこの紫蘇ジュースを出してくれた。紫蘇の紫色が目に鮮やかで、ほどよい酸っぱさが暑さをくぐり抜けて一息つくには良い暑気払いになった。生前の旦那様の思い出が会話会話に花咲くと奥様はふと涙ぐみ、言葉を詰まらせた。「(癌で)覚悟はしていたけれど、こんなに早く亡くなるなんて…」あまり休めていないのだろう。目には隈ができ、以前よりもやつれていた。そんなとき、どんな言葉で励ませるだろうか。どんな行為が励みになるのだろうか。
 返礼として出す寒中見舞いの葉書は木喰明満の地蔵菩薩像の絵葉書(日本民藝館で取り扱いあり)にした。地蔵菩薩の全てを包み込むような優しい微笑がある。悲しみに暮れた人が明日を生きるための糧になれますように。遠い立場にいるからこそ、できる心遣いは、したい。寒の入りの前日にそっとポストに投函した。
 今まではご夫婦で寮の食事・管理運営をしていたが、今は奥様一人で周囲の力を借りながら立派に切り盛りしている。亡くした悲しみはまだ癒えないけれども、まっすぐ前を向いている。困難に直面しても「旦那様が守ってくれているから」乗り越えられると仰って下さる。片方が亡くなっても残る「愛」の形に目を見張った。まるで、目に見えない存在に優しく包まれているような。安心感にくるまれた「愛」の形。
 寒の入りの頃には、一年が終わり、一年が始まる時期と重なる頃。悲しみに明け暮れてしまった方への寒中見舞いは木喰明満の地蔵菩薩像の絵葉書を出すのがこれからの習慣になりそうだ。優しい微笑が受け取った人の心にゆっくり響くよう願って。人間、生きねばならぬ。
鈴木 華子 記ス

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posted by 東京民藝協会 at 18:13| Comment(0) | その他

2022年01月08日

出西窯の登り窯焼成のLIVE配信を拝見して

出西窯の登り窯の窯焚きをLIVE配信していただき、ありがとうございました。
使わなくなった登り窯の見学については、これまでに何回もありましたが、現役の登り窯の窯焚きの様子を、実況付きで見ることが出来るとは思ってもおらず、とても貴重な体験でした。
(長時間にわたり手持ちショットを見続けていたら、途中で“画像酔い”してしまいました(笑))

窯焚きの全体を通して見て、分かったことは、自分でも体験したことのある穴窯の原理と、ほぼ同じであるということでした。例えれば、穴窯を焚くことを何段にも分けて繰り返していき、上段にまで達することで窯全体を焚き上げる、ということでしょうか。

灯油窯やガス窯であれば1人でも焼成できますが、穴窯の焼成は三日三晩もぶっ通しで薪をくべる必要があり、数人の交代制でなければ取り組めませんでした。
登り窯では、窯の容量がとてつもなく大きくて焼成時間が長期化するので、組織的な体制を組めないと出来ないことだなあ、というのが実感です。

私は、灯油窯やガス窯の焼成温度については、一般的になった熱電対(パイロメーター)に加えて、ゼーゲルコーン3本を使って、本体の焼き加減や釉薬の溶け具合いの判断にしていましたし、ぐい呑み型の色見本(テストピース)を入れて置き、ゼーゲルコーンの傾き具合を見ながら、取り出して溶け具合や発色具合を確かめていました。

途中のゼーゲルコーンの話で、全学年児童の作品を焼いたときのことを思い出し、手元に取ってあるゼーゲルコーンを取り出しました。

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私が使っていたのは、写真に写っているゼーゲルコーンのSK7・SK8・SK9の3本でした。
奥の方のSK7(設定温度1,230℃)がへたり、真ん中のSK8(1,250℃)が傾いて先が、ちょうど着いた瞬間です。手前のSK9(1,280℃)は未だ傾き始めたばかりですので、窯の内部のこの位置の温度は釉薬が溶ける1,250℃前後であると判断する訳です。
しかし一般に、熱電対(パイロメーター)は瞬間的な温度を測定し、ゼーゲルコーンは蓄積された総熱量を測定すると言われます。そういう点では、色見本と同じようにゼーゲルコーンの方が信頼度が高いと言えそうです。
私はアナログ式の温度計を主に使っていましたが、そのころにはデジタル式温度計が出現し始め、1℃単位の温度の上がり下がりが把握でき、窯の中の“雰囲気”が中性から酸化へ向かっているのか、還元や強還元へ向かっているかが瞬時に判断できるので、買い替えたかったが買えなかった思い出があります。

その、毎回の焼成で出てくる溶けたゼーゲルコーンを、とても興味を持って熱心に見ていた子供(現在グラフィックデザイナー)に持ち帰らせたところ、後日、父親(建築設計者)が、ひと窯に一つの貴重なものを戴いたと、涙を流さんばかりに感激していたと伺ったことがあります。そこまで受け止めてくれるとは思ってもいなかったので、嬉しかったですね。

年に数回の貴重な登り窯の焼成の時間帯に、全てを惜しみなく公開していただいた出西窯の皆さんに、感謝いたします。

東京民藝協会会員 花巻人形工房 & 艸炎窯  菊池正樹
posted by 東京民藝協会 at 17:45| Comment(0) | 例会

2022年01月06日

2022年オンライン例会のお知らせ

明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。
現在、東京国立近代美術館で「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」展(会期:〜2月13日)が開催されています。この展覧会について、日本民藝館の杉山学芸部長にオンラインでの解説をしていただけることになりました。すでに展示を観られた方も、これから観られるという方も、貴重なこの機会に是非ご参加ください。

「民藝の100年」展を巡って
日時 2022年1月15日(土) 19:00〜
講師 杉山享司氏(日本民藝館)
 

*本年も新年会はおこないません。

東京民藝協会事務局

posted by 東京民藝協会 at 20:21| Comment(0) | 例会