この映画はこのムリダンガムにとりつかれた青年の物語である。青年はたまたま巨匠の演奏を聞いて感動し、その巨匠に弟子入りを懇願するが取り付く島もない。なぜなら、カルナータカ音楽は神聖な音楽で、演奏者も神聖な階層の人間でなくてはならない、わかりきったことではないかと。実は青年の父親はムリダンガム作りの職人であって、獣の皮を扱うけがれたカーストに属しているのであった。インドのカースト制は複雑で詳細は不明だが、簡単に言うとそういうことらしい。演奏家が尊敬されているのに、その楽器を作る職人が賤視されるというのは解せない話だが。(同じようなことが日本にもあった、いや現にあるかもしれない。)しかし青年はそれを熱意と運で乗り越えて巨匠の弟子となり、さらに才能と努力で一流演奏家になっていった、とまあこんな筋書きである。
そしていやはやインド音楽はすごい。青年は一時巨匠から破門されるのだが、そのときインド中を旅して、各地の打楽器を見たり習ったりする。その音楽と楽器、踊りなどの豊かさ、多彩さには驚くばかり。青年はそれらの音楽を経験して自分の演奏をより高めていく。超守旧派の師も最後にはそれを認めて「お前こそおれの音楽の継承者だ」と言う。めでたしめでたし。
歌と踊りのインド映画ではあるが、普遍的に存在する工芸と差別の問題、古典と革新の問題にも斬り込んだ珍しい映画であった。渋谷のイメージフォーラムの単館上映らしい。
(藤田)
