しかし、教科書の記述は「柳宗悦は、日常的に庶民が用いる実用品の中に日本文化の個性としての美を発見し、民芸という言葉で表現した。」というものだけであり、この2行がすべてです。同社の資料集では多少詳しく紹介されており、日本民藝館が提供した写真(木喰仏、染付秋草文面取壺)が掲載され、「下手物」や「日本民藝館」という言葉もあり、原典資料として『雑器の美』が掲載されていますが、それでも半ページにもすぎません。
「倫理」の教科書は全7社から出版されていますが、7社すべての教科書に柳の思想が掲載されているのは幸いといえます。生徒は基本的に試験のために学習をしますので、柳の思想が試験に出題されることもあると思います。しかし、試験対策としての柳の思想の重要性は、1つ星(最重要は5つ星)です。教員の教え方にもよりますが、「柳宗悦」と「民芸」の用語を記憶するだけで、生徒が民芸の美について理解することは不可能です。
同社の「公共」の教科書でも「柳宗悦は、私たちが何気なく使う器や道具に、日本の伝統文化をみることができました。」が記載のすべてです。資料集は4分の1頁のトピックだけであり、実にさみしいものです。
そのようななかで「民芸」について高校生が学ぶ機会として希望が持てるのは、2022年からの新カリキュラムで新設された「総合的な探究の時間」です。この授業は、生徒が自らの興味・関心に基づいて課題を設定し、探究していくというものです。学校によって異なると思いますが、2年間〜3年間をかけて学習を深めていきます。そして文部科学省がふさわしい探究課題としてあげていることの一つとして、「伝統文化」があります。これは地域の伝統や文化とその継承に取り組む人々や組織を探究課題として設定することを想定しているものです。これに関して「民芸」は、うってつけの課題設定であると考えます。柳の著作を読み、日本民藝館に足を運び、気に入った民芸品を使用する機会があれば立派な探究になるはずです。
また小・中学校にも「総合学習の時間」があり、探究的な学習が重視されていますので、小学校から高校までそれぞれの年代に応じて、「民芸」に関して学ぶ機会ができると考えます。少なくとも「日本民藝館」が現在まで存続していることを伝えることはできます。
今後の「民芸」の在り方を考えると子供たちに知ってもらうことが第一です。私は折に触れて「民芸」について生徒に話をしていますが、意外に興味をもってもらえるものだということを感じています。日本全国の学校で「探究の時間」がありますので、「民芸」を探究課題としてもらえるように各学校に働きかけるということができればよいのでは、と考えています。
以上
東京民芸協会 竹村知洋
東京民芸協会 竹村知洋