2018年11月13日

手元の郷土玩具(20) 和歌山の瓦猿・瓦牛

 広島から京都へ向かうのに、和歌山に立ち寄るというのはおかしな話かもしれないが、東海道−山陽新幹線で行き来ばかりしていると、思い切って時間を見つけなければ、和歌山まで足を延ばせない。
 和歌山へ出かけたのは、かの地の郷土玩具・瓦猿と瓦牛をいただくためである。
 JR和歌山駅から徒歩10分ほどのところに、この玩具を扱う野上泰司郎さんのお宅がある。
 「扱う」と書いたのは、野上さんのお宅では、この瓦焼きの人形を焼いているのではなく、彩色と販売管理だけを行っているからである。


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古い瓦猿たち

 野上さんのお宅のある地域は元は「瓦町」で、野上家も昔は瓦を焼いていたそうだが、街中でもあり、先代で瓦を焼くのをやめてしまわれたそうだ。ただし、江戸後期から作られているという伝統の瓦猿・瓦牛を守るため、近年まで大阪南部の泉州瓦の窯元に焼成を依頼していた。しかし、阪神大震災や台風などでの被害から、瓦屋根を使う家が急速に減り、依頼できる窯元もなくなったため、今は淡路島で鬼瓦などを専門に作る瓦屋さんに依頼して焼いてもらっているのだという。
 猿と牛の色が鈍い銀色なのは、「いぶし瓦」という製法による。インターネットで調べると、いぶし瓦とは「釉薬を使わず焼成した後に、空気を完全に遮断して「むし焼き」にする「燻(いぶし)化工程」が特徴です。焼成時に炭化水素ガスを接触させることで、瓦の表面に銀色の炭素膜を形成します。」とのこと(株式会社 田内設計のHPより引用)。
 まさに、銀色に輝く瓦屋根の色そのものである。

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瓦猿の石膏型

 型は石膏の二枚型で、瓦屋さんに依頼して型抜き・整形・焼成までを行ってもらう。牛は無彩色だが、猿は顔と手に持つ桃に、奥様の喜美子さんが「べんがら」で彩色する。3回くらい重ねて塗らないと、しっかりした色が出ないそうだ。
 石膏型は、ある程度の数の人形を抜くと劣化するので、何度も作り変えてきた。多少の大きさの差はあるが、歴代の人形の姿かたちは昔からほぼ変わらない。

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彩色用のべんがら

 瓦猿は安産祈願として、瓦牛は子どもの腫物治癒祈願として、市内の神社で今も奉納される。腫物のことを昔は「くさ」といい、草を牛が食べることにひっかけたものという。
 年間に100個ほどしか出ないというが、数年前に無印良品が正月に販売する「福缶」(缶詰の中に各地の郷土玩具を入れた福袋のようなもの)に採用され、その時は2500個もの注文があって、春から年末まで、淡路の窯元と共に大変だったとのこと。それでも、そのために瓦猿が知られるようになり、時々、遠くから買い求めに来る人がある。
 例えば、妊娠中のご夫婦が安産のためにと買いに来て、その後、「おかげで無事に安産できた」とのお礼状が届いたとか。また瓦牛も、アトピーを患った人が買い求めに来たそうで、瓦牛のひんやりとした肌触りが気持ちいいと言われたという。
 何ら科学的な根拠のない素朴な人形に、今も願いを籠める人。日本人の小さな信仰心が今も根付いていることに、ちょっと安堵したような気持ちになる。


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瓦牛(左)と瓦猿

 江戸末期に和歌山で暮らした女性の日記『小梅日記』の、文久元(1860)年3月の項に、瓦猿を孫の安産の御礼参りで奉納する記事があり、喜美子さんは「確かに江戸時代からあったものと確信できた」という。和歌山県下でも大半の郷土玩具が姿を消した今、野上ご夫妻はこの瓦猿と瓦牛を、何とかして次の時代にも繋げていきたいと言われていた。
 子を産む女性や病いにある人を守る玩具と、その玩具を守る人。いささか長居をしてしまったが、穏やかなご夫婦の優しさと、長く愛されてきた玩具をお土産に、帰り道の心の中は暖かかった。

※野上さんのHP http://www.kawarazaru.com/
(千葉孝嗣)



posted by 東京民藝協会 at 12:06| Comment(3) | その他
この記事へのコメント
木の葉ざると似ているような気もしますが、関係ないですか。
以前、木の葉ざるの窯元、永田さんの奥様-----熊本協会の会員ですが、お聞きしたら、使い道は同じようなことをおっしゃっていました。
Posted by 藤田 at 2018年11月18日 19:36
うーん、はっきりとしたことはわかりませんが、こういう原始的な猿の土偶って、木の葉猿はもちろん、関西から九州、沖縄にかけて多いように思います。
何らかの信仰や伝説などで、繋がりがあるのかもしれませんね。
Posted by ちば at 2018年11月20日 21:17
ご指摘通り猿は多いですね。
色々な信仰の対象だったからでしょうか。
あまり大きい問題みたいなので、退散します。
Posted by 藤田 at 2018年11月21日 22:06
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