恥ずかしながら、秋岡芳夫さんの名前を私は全く知らなかった。秋岡さんとともに活動していた、「モノモノ」代表の山口泰子さんの話を聞く機会があるので、予習として(でもほとんど調べずに)目黒区美術館に足を運んだ。
展覧会の感想を一言で表すと、「驚いた」だった。まず、1階入口の大量の竹トンボに出迎えられて驚いた。多才かつデザイン活動に確かな思想を持って“手の復権”を自ら乗り出し取り組んでいった経緯を豊富な資料で追っていて、それに驚き、感心した。広く取ったフリースペースには数種類の食器がおかれ、スライドで用途に捉われない発想による使い方を見せてくれ、それに唸った。また、道具のコレクションも資料として一級だ。
消費されるモノのデザインは資料として残りにくい。それでも、各年代の活動に関する豊富な資料が、世の中の動きを追いながらいくつものデザイナーの顔を伝えてくれた。
プロダクトデザインが好きな人、手しごとが好きな人、はたまた絵本や装丁が好きな人…秋岡さんはそれぞれに一級の仕事をしているから、それらの観点だけでも楽しめるだろう。
でも、それではもったいない。消費社会へとまっしぐらというあの60年代に、それまでの企業のためのデザインから脱却した、その先見性を持ちえたデザイナーや生産者がいただろうか。その、「モノモノ」というグループでの活動について、鑑賞後に山口さんから聞いたお話は、たいへん勉強になった。
私が秋岡さんの活動の中で最も関心を持ったのは、作り手と使い手(“消費者”ではなく)を結ぶ個人や地球環境をも含めた生活の仕方を唱える“思想”だった。わかりやすい絵を描ける筆者が高度経済成長期の日本と日本人に提案するその思想に立脚してまとめ上げた内容は、今見ても斬新であり、21世紀の私たちに強く問いかけているとしか思えない。
山口氏が言っていた。通産省(今の経済産業省)が地場産業をテコ入れするために東京からデザイナーを派遣した。県がデザイナーの言われるままに問屋制度を飛ばして作っても、売れない。それを誰の役にも立たないお金(助成金)の使い方だと、秋岡氏は見抜いていたそうだ。だから、指導でなくアドバイス程度にとどめ、試作品を買い取って、展示会の方式を用いて使い手を開発してしまおうという発想で、モノモノは活動し、好評を博した。
民藝に関心を持つ人は、このモノモノでの活動と、それ以降の東北や北海道における、地域社会のデザインに取り組んだ経緯を、ぜひじっくりと見ていただきたい。秋岡氏は、ネーミングのセンスにもすぐれていた。「里山」、「裏作工芸」、「第3次林業」…他にも色々あるし、展示内容からそれが随所に伺える。
考えたことを伝える画力と言葉のセンスを持ち合わせ、著作も何冊も出していたのだが、没後10年以上もたつと新刊書店では入手できない(出版業界にいた者としては、こういう実情に何とも言えない思いを持つ)。幸い、復刊ドットコムで2点を入手でき、美術館では玉川大学出版会がオンデマンドで復刊重版した何点かを扱っていた。ちなみに、今回の展示のカタログは展覧会終了後に、新刊書店で購入できるように流通のためのコードをつけて発売される予定があるそうだ。遠方で足を運べない方は、この書籍化を待っていてほしい。
今回の展覧会は、巡回展ではなく目黒区美術館単館での企画となった。秋岡さんと東北工業大学の人達とともに、村づくりに取り組んだ北海道や岩手県では残念ながら開催されない。色々な事情があってできなかったと、山口さんからお聞きした。
貴重な展覧会であると知り、その後再訪してじっくりと見てきた。改めて、素晴らしかった。
(会員:加藤亜希子)
DOMA秋岡芳夫展 −モノへの思想と関係のデザイン
2011年12月25日(日)まで
10:00〜18:00(入館は17:30まで) 休館日:月曜日
目黒区美術館
http://www.mmat.jp/
posted by 東京民藝協会 at 12:13|
Comment(1)
|
展示会レポート