普段、帽子をかぶることのほとんどない私ですが、今年の夏は、とうとう麦わら帽子を購入しました。というのも、麦わら帽子職人の横川さんとの出会いがあったからです。もちろん、例年の暑さに対処しなければ、という思いもありましたが。
横川さんは、埼玉県の春日部で麦わら帽子を作っておられる、この道40年以上の麦わら帽子職人です。それほど多くを語りませんが、人の顔の線や印象を見て、その人に合う帽子を手作りで作ってくださいます。もちろん、本人の希望もちゃんと聞いてくれます。
気候変動の少ない地域では、古くから麦農家が多く、広島、和歌山などと並んで、埼玉県春日部も大きな産地でした。それまでは、虫かごなどの材料として使われていた麦わらは、副業として真田紐が作られるようになり、これが進んで麦わら帽子となったそうです。麦を紐状に編んで形を作っていく麦わら帽子は通気性がよく、夏の日よけとして、明治頃からなじみのあるものです。
横川さんの麦わら帽子は、細い麦を材料に使い、均一で1点1点丁寧なお仕事。ミシンのみで仕上げるので麦がつぶれず、全体がふっくらとした仕上がりとなるそうです。また、使っていくうちに飴色に変わっていくとのこと。
帽子をかぶることのない私が、それほど安くもない帽子(1人1人採寸をしてその人に見あう帽子を作っていただくので、決して高いとはいえませんが)を購入するにいたったきっかけとして、こんなことがありました。
ある日、友人が帽子を作るというので、帽子受注会について行くことになりました。ただついていっただけで買う気がなかった私は、なにも考えず無造作に目の前の麦わら帽子をかぶって、自分にあうものを勝手に決め楽しんでいました。そのなかで買うならこれかなと漠然と思っていた帽子をかぶっているときに、横川さんに言われたひとこと「その帽子をかぶっていると、誰かに似ていると言われると思いますよ」。
わたしは、前側の2か所がへこんでいるいわゆるパナマ帽のような帽子をかぶっていました。「失礼なことをいうようで申し訳ありませんが」という前置きのあと「あなたのそのメガネ、そして面長の顔立ちでこの帽子をかぶると、ある方のイメージがついてまわりますよ」。私はわりと太い黒縁のメガネを普段かけているのですが「横山やすしを彷彿とさせますよ」といわれたのです。最初はむっとしましたが、おっしゃる意味はよくわかる。
私「では、どういう帽子がいいのでしょうか?」
そこからはこの職人さんの言われるままに。「前側のツバの曲線をゆるやかに、サイドをきつくすると、丸みのある帽子でも男性に合いますよ」とか「あなたの印象だと、真ん中のリボン、こんな淡い色が合うと思いますよ」とか。私のキャラクターのことも考えていただきながら、楽しく形を決め、ついに購入してしまいました。
そして、2か月ほど待って、できあがったのがこの帽子です。なるほど横川さんのご指摘は間違っていなかったなと鏡の前で感心させられました。やすしさんにならずに良かった。
夏用ですので、次回注文できるのは来年の4月か5月頃。機会があればみなさんもぜひ。
(村上)