2025年02月01日

福島県の郷土人形 「根子町人形」

 根子町人形を再現製作しております幸田と申します。現在オリジナルの土人形製作をしながら根子町人形の再現製作をし、一昨年から民藝館展にて出品させていただいております。今回、人形について少し書かせていただく機会をいただきましたので、稚拙な文章ですが読んでいただければ幸いです。

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根子町人形 三番叟(福島県立博物館蔵)

 根子町人形は清水町宿(現在の福島県福島市清水町)という奥州街道の宿場町で茶屋兼旅籠屋の仙台屋と隣家吉野家が江戸末期から明治、大正頃まで製作していた土人形です。
こんな伝承が残っています。

(信楽社『根っ子町土人形』より)
 江戸時代末ごろ、仙台堤人形窯元の若い嫁が、舅の嫁いびりに堪えかね、同情する若い腕ききの工人と共に江戸を指して出奔したが、途中清水町宿で女が急病となり、旅籠仙台屋に援われて助かった。逗留中人形師は、堤人形を造り店に並べた。それが評判となり、仙台屋の主人は二人のために屋敷内に工房を作り製作にのり出し、主人もその技を伝授されて自ら窯元となって製作したのにはじまるという


 様々な人が行き交う宿場町ならではのとても興味深いお話です。
根子町人形は素焼きの上に和紙が貼られ、胡粉を塗り、墨、顔料、染料で彩色されています。土人形に和紙を貼るのは割れなど補強で使用する程度ですが、全体に貼る事はなく、これは地元の粘土が荒く脆い為、補強として全体に和紙が貼られたのではないかといわれています。


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根子町人形 小鼓(個人蔵)

 先の伝承の通り堤系ではありますが、製作元に原型が残っていた記録があり、すべて堤人形を転用して製作していたわけではなく、独自の人形が作られていたことがわかります。各地の土人形もそうであったように、製作地の生活環境や文化、また作り手の人となりにより人形は変化していきました。
 根子町人形は絵画的表現に特徴があり、それを北原直喜氏は「軽妙洒脱の美」と評しています。
 (関西郷土玩具研究会『郷土玩具ギャラリー』創刊号・根っ子町人形特集(昭和55年1月発行))
 実際に堤人形、花巻人形、相良人形と見比べるとその雰囲気がわかるかと思います。
 その後、地元の人や宿場町を行き交う人々、行商先の人々により人形が売られていきますが、明治20年の東北線開通、陸上交通機関の発達により清水町宿は衰退し、またブリキ製の新興玩具などにおされ、養蚕農家が求めた蚕神の製作を最後に大正頃には根子町人形は作られなくなりました。

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三宝持ち(再現)

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鯛乗り恵比須(再現)

 なお、根子町人形について、菅野真一氏(宮城県白石市の郷土史家・こけし研究家)の推薦により東京民藝協会発行の「民藝手帖」228号(昭和52年5月)に福島市史編纂室長であった大村三良氏が執筆されています。
 この東京民藝協会とのご縁により全国に根子町人形が知られることとなりました。 
幸田冬子(土人形製作者)


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2025年01月31日

新年のご挨拶

会員の皆さま
 新年おめでとうございます。本年も民藝協会活動へのご理解とご協力、引き続きのお力添えをよろしくお願いいたします。会員の皆さまとともに会を盛り上げてゆくべく、役員一同様々な楽しい役に立つ企画を考えてまいります。
 昨年9月から始めた「白崎俊次氏撮影フィルムのデジタル化への募金」について、お陰様をもちまして1月末で目標金額500万円をなんとか達成することが出来そうです。本当にありがとうございました。デジタル化の保存を完了させ、民藝に関わる全ての方へ活用していただきたく、アーカイブス化のやり方なども検討してゆきたいと思います。そして、この画像データを使用した出版物の刊行も進めてまいります。どうぞ楽しみにお待ちください。
 先日、日本民藝館「仏教美学〜柳宗悦が見届けたもの〜」を見学し、月森さまに解説をいただきました。この学習の機会が得られるのも日本民藝館のお膝元にある東京民藝協会ならではです。日本民藝館学芸員、職員の皆さまに感謝いたします。今後なにかお困りごとがありましたら遠慮なくお声がけください。東京民藝協会会員を動員してお手伝いさせていただきます。
 そしてその日の午後、新年会を開催しました。新しい会員も参加され、楽しいひと時を過ごしました。先輩の参加者から「私はもう歳なのでそろそろ〜」とのお話がありましたが「いえいえ、これからもずっとご一緒にご参加ください!」とお伝えしました。会の運営には若い人たちの意見も必要ですが、諸先輩方の貴重なご経験とお知恵が必要なのです。これからも例会、見学会、懇親会等々、どうぞご遠慮なくご参加をお待ちしています。
 本年は5月24日に広島全国大会があります。また6月21日、22日には瀬戸市にて民藝夏期学校「瀬戸会場」も開催されます。この夏期学校は東京民藝協会が全面的にバックアップします。ここでも皆さまのご参加、そしてお力添えを重ねてお願いいたします。
 来年には久しぶりに東京での全国大会が予定されております。本当に忙しい一年がスタートしました。皆様のお力を総動員して、日本民藝館、日本民藝協会、東京民藝協会を大いに盛り上げてゆく一年にいたしましょう。
令和7年1月吉日。
東京民藝協会 会長 野ア 潤
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2025年01月30日

1月例会と新年会

 1月26日(土)例会、日本民藝館特別展の見学と新年会を行った。例会の参加者は36名、新年会の参加者34名であった
 日本民藝館特別展は「仏教美学 柳宗悦が見届けたもの」という表題で、展示の担当者、月森俊文さんが説明をして下さった。古今東西いろんなものが混ざって展示されている。数も相当に多かった。そして、それら展示物に名前他一切の説明がつかないという珍しい展示で、こういう展示はおそらく前例がないのではないか。唯一の前例は2019年の民藝館特別展「柳宗悦の直観」だけかもしれない。これも月森さんの担当であったから、彼の一貫した考え方を伺うことができるだろう。

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 われわれはとにかく説明、物語を欲している。説明がないとものを見ることができない。説明を聞いてものを見たような気になる。小林秀雄がむかし「ぼくらが野原を歩いていて一輪の美しい花の咲いているのを見たとする。見ると、それはすみれの花だとわかる。何だ、すみれの花か、と思った瞬間に、ぼくらはもう花の形も色も見るのを止めるでしょう」と言っている。月森さんが、「ボーと見ていても見ることはできません」とおっしゃったが、その通りであろう。が、ボーとでない見方がわからないのが凡人であるから、凡人はやはり救われない、かな。
 私はそもそも「無有好醜の願」がわからないし、ものをボーと見ているだけなので、この展示についても、説明のないことについてもとやかく言えないのだが、月森さんの狙いと熱意は恐縮ながら感じることができたような気がする。なお、月森さんが担当する展示はこれが最後だとのことである。月森さんには当会の例会に何度となく展示説明をしていただいた。感謝申し上げます。

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 そのあと、駒場駅前の「ペスカビアンカ」というレストランに移動して新年会を行った。会費は3000円、今時としては安いほうだろう。会に先立って、野ア会長から目下進行中の白崎撮影写真のデジタル化の寄付についての報告があった。それによるとあと少しで目標額の500万円に達するという。依頼中のデジタル化作業も順調にすすんでいるとのことで、実に喜ばしい。その後井坂さんの名司会によって和やかに進行、全員の自己紹介もやることができた。司会者は食べたり飲んだりできる時間が少ないので大変である。ありがとうございました。
(藤田)

posted by 東京民藝協会 at 13:44| Comment(0) | 例会

2025年01月28日

映画の紹介「ここにいる、生きている」

 この題名からどんな映画を思い浮かべるだろう。何かのドキュメンタリーかとまでは思えても、これが日本の海の昆布の話とは思えないのではないか。ポスターも監督の後ろ姿を中央に据えたもので、どうも意図がわからない。題名とポスターから、監督が主人公に見えてしまう。この題名はまずいと思うが、中身が興味深かったので紹介することとした。
 吉祥寺のアップリンクで上映していて、たまたまその最終日1月23日に行ったら上映後に監督の挨拶があった。写真はその時のものである。監督は長谷川友美と言う女性で、ほとんど単独で撮影した自主映画だそうだ。監督は逗子に引っ越したことをきっかけに、日本の海の様子が変わって沿岸漁業ができなくなりつつあるということを知った。その具体的な様子を知りたくて日本中の海を見て回ったという。

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 今日本の海は温暖化の影響で磯焼けといういわば海の砂漠化が進行している。大量発生した食べられないウニが昆布など海藻を食べつくし、ひいてはそこに住む魚もいなくなっているという。ウニは駆除しても駆除しても追いつかないほど増えている。この映画はその現状と、これに対する漁業関係者の戦いを取材したものである。
 私は磯焼けということを聞いてはいても、これほど深刻な事態になっていることは知らなかった。世をあげてうまいものを食いたいとか珍しいものを食いたいとかに夢中である。またことに近年は器にも関心が集まっている。しかし、その根本の食料生産がどうなっているかということについて、多くの人は無関心である。その無関心の裏側で地球上の耕地がどんどん失われ、種苗は世界的な大企業数社に囲い込まれ、それと関連して生物の多様性が失われてきている。この映画に即して言うと、昆布がウニに食い尽くされようとしているのだ。
 我々はこのような現状を知らなくてはならないし、このような現状を正そうとして困難な戦いをしている人がいることも知らなくてはならないのではないか。この映画でその一端を知ることができる。
 以上、簡単な紹介でした。
(藤田)

posted by 東京民藝協会 at 17:56| Comment(0) | その他