2024年09月26日

手のひらの旅 ―手仕事を探して(全10回) 8 無限の点から生まれる宇宙

 今も東京で続けられている工藝をもう一つ訪ねてみよう。「江戸小紋」である。
 江戸時代はたびたび奢侈禁止令が出され、派手な色柄の着物は禁じられていた。それゆえ武士の礼装である裃は、藍、茶、黒などの色で、無地に近い小紋柄が染められていた。遠くでみると無地だが、近寄ってよく見ると細かい点柄でびっしりと埋め尽くされている。それは侍たちの隠れたオシャレだった。
 その後、町人文化が花開くと、江戸っ子たちがさらに粋な遊び心で着飾った。一見地味で渋いのに、じつは宝尽し、雪輪、松竹梅などの柄が、極小でちりばめられている。こうして発展した「江戸小紋」は、たとえ生活や文化が抑制されても、オシャレ心を忘れなかった江戸の人々の「意気地」の証しだった。

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 かつて神田川沿いには、たくさんの染物屋さんが軒を連ねていた。中野区落合で仕事をされている廣瀬雄一さんは、100年以上続く老舗の四代目。子供の頃から染め場で遊び、職人さんたちにかわいがられて、自然とこの仕事を継いだという。
 「昔の名人が作ったものを見ると、すぐにわかります。飽きがこない見事な美しさがあります。」と廣瀬さんは語る。そして自分もそんな職人技の高みを目指したいと熱く語る。
 型紙は昔ながらの伊勢型紙。1ミリにも満たない点が錐彫りされた渋紙を、長板に貼り付けた真白な絹地に乗せる。そして刃物のように薄く削った檜のヘラで、糊を刷っていく。初めはゆっくりと、次第に波にのるようにヘラが小気味よく上下する。型紙一枚分を終えると、ヘラを口にサッとくわえて型紙を両手で持ち上げ、継ぎ目に合わせて完璧につないでいく。
点が1個でも潰れたりズレたりすると、反物全体が台無しになる。まさに真剣勝負だ。刷り終えて型紙を持ち上げると、見事な連続模様が生まれていた。

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 「江戸小紋」の伝統な柄の一つに、「鮫小紋」がある。小さな点が集まり弧を描き、また次の半円が現れてつながっていく。それを鮫皮に見立てた柄だ。ずっと見ているとまるで柄自体が動いているように見える。不思議だ。
「鮫小紋には、永遠性を感じる。」と廣瀬さんはいう。小さな点が集まって、星のように円運動をくり返すこの柄は、まさに無限の宇宙そのものだ。
(服飾ブランド matohuデザイナー 堀畑裕之)

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2024年09月22日

次回オンライン例会のお知らせ

東京民藝協会 2024年9月オンライン例会
「織田達也さんに聞く」
日時 2024年9月28日(土)19:00〜      
講師 織田達也(作陶家)
香川に工房を構える作陶家・織田達也さんを迎えて、作品解説をはじめ、磁器の仕事やご自身の経歴、師 瀧田項一先生の思い出などお話を伺います。
銀座たくみで開催する「還暦記念 織田達也 作陶展」(9月28日〜10月5日)の展示会場より中継します。



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2024年08月31日

『民芸手帖』編集者・白崎俊次撮影写真 デジタル保存について募金のお願い (昭和 30~50年代に残された手仕事や風物の記録、約7万枚のデジタル化プロジェクト)

 私ども東京民藝協会はかつて月刊の小冊子『民芸手帖』を発行しておりました。B6横判の機関誌で、民藝運動の裾野を広げる特色ある構成で親しまれ、1968(昭和33)年~1982(昭和57)年の25年間にわたって通算295号が刊行されました。
 この『民芸手帖』の取材、編集を主に行ったのが白崎俊次氏(1921~1984)です。白崎氏は取材を通じ、日本各地の手仕事や民家、民俗、民藝運動の仲間たちなどを撮影し、『民芸手帖』に掲載しました。
それら写真のもとになったフィルムのすべてが、このたび白崎氏のご遺族から東京民藝協会に寄贈されました。一部はすでに『民藝』2021年12月号の特集「白崎俊次と民芸手帖」にて公表されています。
 残されたフィルムは現在では失われた手仕事等も多く、貴重なものです。しかし、古いものは60年以上経過しているため、劣化が激しいのが現状です。そこで東京民藝協会ではこの貴重な記録を未来に残すべく、フィルムのデジタル化を早急に進めることにしました。まずは比較的整理された部分から着手する予定ですが、それでも35ミリ
フィルム約1800本、6万7000コマ、6×6フィルム370 本、4400コマあり、400万円以上の費用が見込まれています。
 つきましてはこれに要する費用について、会員の皆様のご協力を是非賜りたくお願いを申し上げる次第です。なお費用が準備でき、データ化が完了したあかつきには上下2冊の関連書籍を発行する予定です。その際にはお礼として書籍を進呈いたします。
 民藝や手工芸にかかわる作り手や研究者をはじめ、民藝に関心のあるすべての方々に活用していただきたく、白崎俊次撮影写真のデジタル保存を進めてゆきたいと考えております。みなさま、どうかお力添えをよろしくお願い申し上げます。

2024 年7月31日
東京民藝協会会長 野ア潤

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『民芸手帖』創刊号/1958年6月号

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宮崎・高千穂 岩戸神楽手刀男命戸取りの舞/1965年3月


○募金額 1口1万円(何口でも可)
*関連書籍の進呈は1口で1冊、2口以上で上下2冊を予定。
○募集目標額 500万円
○募金期間 2024年9月1日~2024年12月末日
○申し込み方法
東京民藝協会の決済サイトにアクセス
https://shirasakishunjiphoto.stores.jp
⇨ 募金専用サイトを立ち上げる
⇨「白崎俊次撮影写真のデジタル化募金」をカートに入れて決済
○問い合わせ先
「白崎俊次撮影写真のデジタル化募金」事務局
e-mail:shirasakishunji.photo@gmail.com


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熊本 楮炊き/1965年2月

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青森 弘前凧/1960年11月

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栃木 益子陶器荷作り/1962年3月
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2024年08月02日

次回の例会

東京民藝協会 2024年8月例会
「民藝と濱田庄司」
日時:8月20日(火)19:00〜
場所:駒場住区センター
(目黒区駒場 1-22-4  03-3469-2613 駒場東大前駅より徒歩8分)
講師:佐々風太氏(東京工業大学研究員、雑誌『民藝』編集委員)
参加費:500円
定員:24人(要予約、会員優先/先着順)
参加申し込み:18日(日)までに協会アドレスに(tokyomingeikyokai1954@gmail.com)に申し込みください。
2024年で生誕130年を迎える陶芸家、濱田庄司(1894-1978)。近代工芸の巨匠として、柳宗悦(1889-1961)と並ぶ民藝運動の牽引者として、よく知られています。今回の講座では、濱田の蒐集や作陶について辿り、彼が今日に投げかけるものについて皆さんと考え
てみたいと思います。(佐々)


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posted by 東京民藝協会 at 17:11| Comment(0) | 例会